2009年02月14日

9

 サツキが言った言葉の意味を、すぐに理沙が理解できたわけではなかった。しかし理沙の耳は、サツキがとても大切な何かを伝えようとしているのだと感じていた。
「心の・・・目?」
「ええ。新宿二丁目でオカマなんかやってると、それこそいろんなことがあるわ。男同士の痴話喧嘩や自殺さわぎ。女とオカマが、ひとりの男を取り合って大喧嘩なんてこともある。テレビをつけりゃ、あたしたちの表面上だけを取り上げて面白おかしく騒いだり。まぁ、オカマであることをネタにしてタレント活動してる子もいるから、しかたないんだけどね」
 サツキはあっけらかんと苦笑まじりでそう言った。オカマたちもみんな顔を見合わせ、肩をすくめて笑っている。
「そんなこと、ここらじゃ日常茶飯事なの。それを見たまま受け止めてたらとてもじゃないけどやってられないわ。それこそストレスで病気になっちゃう」
「そうそう。第一あたしたちは、生きたいように生きてくだけでいろんなこと言われるのよ。変態だとか、気持ち悪いとか、頭おかしいなんて言われたことも、一度や二度じゃないもんね」
 リリィはそう言うと、プーっと頬を膨らませた。
「つまりこういうことよ。何でも重く受け止めないこと。それから物事を見たまま捉えないこと。物事にはいつでも原因があって結果がある。見たことをそのまま受け止めると、原因まで考えることをしなくなるの。原因をしっかり見極めようとすることが、心の目を開けること。わかった?」
 理沙はサツキを見つめ、小さくつぶやいた。
「原因と、結果・・・」
「・・・理沙さん、・・・麻子さんがとっかえひっかえ男を誘っていることにも、必ず原因があるの。原因のない結果なんてないのよ。たぶん彼女もあなたと同じ。見たくないものから目をそむけたのね。麻子さんが見たくなかったものが何かなんてあたしにはわからない。でもそのツケはいつか必ずその人に回ってくる。彼女のツケは、ああいう形で回ってきたんだと思うの」
「・・・お姉ちゃんの見たくないものって、いったい何なんでしょうか?」
「あたしにはわからないって言ったでしょ? それにね、何でもかんでも人に教えてもらおうとしちゃダメ。あなたの目は、もうちゃんと見えてるんでしょ? だったら自分ひとりで行動しなさい。今何をすればいいのか。ちゃんとひとりで考えるの。そうしたらおのずと心の目が開いて、あなたのやるべき事が見えてくるはずよ」
 サツキはそう言うと、深く考え込んでしまった理沙に、新しいウーロン茶割りを作ってやった。
posted by 夢野さくら at 16:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 14番目の月
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