2009年01月20日

5

 その夜、つかさと美鈴は、約束通り理沙を『紫頭巾』に連れてきた。
 問題が大きくなり過ぎ、自分たちだけでは処理しきれないと考えたのだ。事情は自分たちよりオカマたちの方が詳しく知っているかもしれないし、できたら「あとはママたちに任せるからよろしくお願いしますぅ・・・」くらいの心境になっていた。
 理沙は期待に満ちた目でオカマたちを見回し、「ここには姉がしょっちゅう遊びに来てるとお聞きしました。最近ではいつごろ来ましたか?」と尋ねた。その目は「ここに来さえすれば、いろんなことがわかるはず」と言っていた。
 ダンボは理沙の澄んだ視線に耐えきれず、ぎこちない笑顔を彼女に向けると、「ちょっと失礼しまぁす」とつかさを店の入り口に引っ張って行った。
「ちょっと! いったいどういうことよ! 野村さんはここに3回も来たことないのよ! 何でいつの間にしょっちゅう遊びに来てることになってんのよ!」
「だってしょうがないじゃない。野村さんがよく行くところに連れていけって言うんだもん。そんなの私、隣しか知らないの! この状況で精神科のクリニックになんて、妹さん連れてけるわけないじゃない」
「そりゃそうかもしれないけど、何もうちにくることないじゃないの」
「だって噂の内容知りたいって言うんだもん。そんなの困るじゃない、私たち。妹さんに言えるわけないもん」
「あたしたちだって困るわよ! ママにこれ以上あの件には首突っ込むなって言われてるのよ」
「こうなれば一蓮托生じゃない。一緒に困ろうよ。第一私たちがクリニックに行き辛くなったのだって、元はといえばリリィちゃんが理沙さんの婚約者、えっと田島さんだっけ? 彼をここに連れてきたことが原因じゃない。従業員の責任は、店全体で取ってもらわなくちゃ!」
「そうはいうけどねぇ、あれはあたしたちだって被害者なのよ」
 つかさはダンボの抗議を当然の如くスルーし、話を続ける。
「変な電話の男って、たぶん新宿支店の本永俊介だと思うのよね。あの人が噂をばらまいた張本人だってことで、今支店で悪者扱いらしいの。野村さんが銀行辞めたのは本永の嫌がらせのせいだとか、野村さんを相当妬んでたらしいとかね。銀行側が噂の真相確かめる前に野村さんが辞めちゃったから、行内では噂は本永が流したガセってことになってるのよね」
「・・・そう」
「理沙さんにはまだ何も言ってないけど」
「どうして? ガセってことになってるなら、隠すことないじゃないの」
 つかさはペロッと舌を出し、肩をすくめて言った。
「そうは言ってもぉ、万が一泣かれたら困るじゃない私たち」
「あのね、困るのはあたしたちだって一緒なのよ!」
 店の入り口でコソコソと話を続けるダンボとつかさ。いつまでも戻ってこない2人を、理沙はいぶかしげに見つめた。
「ほら理沙さん、ボーッとしないで飲んで飲んで!」
 マルコが明るい声をあげて飲み物を勧める。
「あらヤダ! グラス空っぽじゃないの。やぁねぇ、すぐ新しいの作るわね」
 つい先ほど、麻子が銀行を辞めたという衝撃の事実で、全てのグラスをオカマたちが飲み干していたのだった。
 理沙はマルコにぎこちない笑顔を向けながら、オカマたちの間に流れる微妙な空気を感じて取っていた。
 つかさたちは、ここに来さえすればいろいろなことを教えてくれるはずだと言っていた。しかしそれは間違いだったのか・・・。
 すっかり考え込んでしまった理沙に身体を向け、サツキはゆっくりと口を開いた。
「理沙さん、この隣のビルに『新宿メンタルクリニック』という精神科の病院があるのを知ってるかしら」
 サツキの思わぬ言葉に、『紫頭巾』の空気が一気に張り詰めた。
理沙は戸惑いながら答える。
「・・・いえ、知りません」
「そこのクリニックの先生は、岩田陽平っていう人よ。彼は麻子さんの中学時代の同級生で、今お姉さんとお付き合いをしている人なの」
「ママ・・・そんなこと言っちゃって大丈夫なの?」
 リリィが心配そうに囁く。
 サツキは大きく息を吐き出すと、リリィに疲れたような笑みを向けた。
「仕方がないわ。こうなったら覚悟を決めましょう」
posted by 夢野さくら at 12:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 14番目の月
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