2008年12月21日

第4章 1

 新宿歌舞伎町の月曜深夜3時過ぎ。
 いかにも夜の職業についてます的な女の子数人が、今夜もリリィの占い屋に列を作っている。
「先生! ちゃんと聞いてます?」
 占い中だというのに、リリィはボーッと考えごとをしていた。
 目の下には濃いクマがあり、長期間の寝不足を物語っている。
 純也と会い、信じられないような話を聞いてからもう1ヶ月近くが経っていた。陽平はこちらで対処すると言ったきり何も言ってはこない。いったい今はどうなっているのかとリリィは気になって仕方がなかった。つかさと美鈴もあれから一度も店に顔を見せない。そのうえママから、当分『新宿メンタルクリニック』へ行ってはいけないし、この問題に首を突っ込むことも禁止と言われてしまった。もうクリニックの玄関に鍵はかかってないし、行けばなにかしらの情報が得られるはずなのにそれもできない。リリィの目の下のクマは、我慢がついに限界に達した証拠で、ここ一週間ばかり、寝る時間を削っていろいろ調べていたのだ。
 純也の話を聞き終わった時、陽平は確かにこう言った。
「こちらで対処の方法を考えます」
あの様子を見た限りでは、麻子がなんらかの病気にかかっていることは間違いないと思う。そしてそれは、当初麻子が言っていたただの不眠症ではないはずだ。ではいったい何の病気なのだろう。パソコンでの検索や書籍等を駆使し、リリィはできうる限りの方法で調べまくった。
 リリィはあの日の自分の行動を後悔していた。後先考えず純也をみんなに紹介し、話を聞かせた。もちろんあの時はそうすべきだと思ったからだ。
 あのままでは先生がかわいそうだ。麻子さんは先生と付き合っていながら、繰り返し他の男と寝ている。いくらなんでもあんまりではないか。
 もちろんその行動に辻褄の合わなさを感じてはいても、麻子の行為はひどすぎると思った。先生を裏切るものだと怒りが込み上げていた。だからこそみんなに話を聞かせ、先生に真実を見てもらい、目を覚ましてほしかったのだ。先生の選んだ人はこんなひどいことをしてますよ。淫乱で最低の尻軽女ですよ。
 でもあの時ママはこう言った。
「行動には全て原因があって、それがわからないうちは何も言えないわ。もしかして本当にかわいそうなのは、先生ではなく野村さんかもしれないのよ」
 そんなママの言葉の意味を理解する前に先生が店にやってきてしまった。自分が純也を連れて行ったことで、最悪の形で全てを知らせる結果となった。
 自分はなんてバカだったんだろう。なんて考え足らずだったんだろうかとリリィは思っていた。
 だからこそ知りたいと思った。知らなかったんだから仕方がない。そう言ってしまうのは簡単だ。だが無知というのは、悪気がないだけに一番罪深いのではないか。わかったからといって何もできないかもしれない。けれどももしかしたら、自分にも何か力になれることがあるかもしれない。
 そして昨日の明け方、ついにリリィは、麻子の病気は『セックス依存症』なのではないかとの結論に達した。
 リリィはそんな病気があることなどこれっぽっちも知らなかったが、純也の話や美鈴の話、そして自分が寝食を忘れて調べつくした結果、全てはそれを示していたのだ。
 里山の話では、つい最近麻子は『新宿メトロプラザホテル』から出入り禁止となったらしい。
 いったい麻子はなぜそんな病気になってしまったのだろう。その原因はどこにあるのか?
 わからない。自分にはまるでわからない。
 でも、自分は何もわかっていないのだと知ることは、決して悪いことじゃないのだとリリィは思っていた。

「先生ったら! 早く占ってください」
「えっ? ああ・・・」
 リリィはボーッと水晶玉を見つめていたが、全く占いに集中できない自分を感じた。集中できないのだから、いくら水晶玉を凝視しても何も見えてはこない。
 ふと顔を上げると、諦めたような顔で帰っていく数人の女の子が見えた。
「リリィ先生最近おかしいよ。どうかしちゃったみたい」
「失恋かなぁ?」
「恋愛専門の占い師が?」
「ほら、占い師って自分のことは占えないって言うじゃん」
「並んでても無駄だよぉ」
 列の前の方にいた女の子が、後ろの子たちに声をかけた。
 自分のことは占えないか・・・。自分を知るって一番難しかったんだわ。『自分のことは自分が一番よくわかってる』と言う人は結構いるけど、それは違うわね。だって本当にそうならこんなに占いが流行るわけないもん。あ〜あ・・・誰か私がこれからどうすればいいのか占ってくれないかしら。
 リリィは本日108回目の大きなため息を漏らすと、肩をがっくりと落として落ち込んだ。
posted by 夢野さくら at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 14番目の月
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