2008年05月17日

4

苦しい・・・。
私はベッドサイドで両膝を抱えてうずくまり、早く早くと叫ぶ心臓の音を聞いていた。
ふと外を見る。カーテンを開け放した窓から見える夜は、闇がますます濃く、ねっとりと濃度を増している。星は全く出ていない。ぬばたま色とでも言うのだろうか、まるで私の心のように穢れた漆黒の闇が、プカプカと空に浮んでいるようだ。
こうやっていると、どんどん現実感というものがなくなってくる。私は今日会社に行ったのだろうか、ちゃんと仕事をこなせたのだろうか。・・・当然知っていてしかるべき一日の記憶さえも、徐々に空ろになってくる。
・・・今は何時なんだろう。もうそろそろ寝なくてはと思うけれど、一人でベッドに入ることがどうしてもできない。そんなことをしたら、空虚さと焦燥感に押し潰され、気が狂ってしまいそうだ。

・・・身体の震えが強くなってきた。欲しい・・・どうしても今欲しい・・・。ここ数日間耐えに耐え、この衝動と必死に戦ってきたけれど、今日はもう戦いに勝つのは無理なんじゃないだろうか・・・。
というより、どうしていつまでもこの部屋にうずくまり、身体の震えと苦しさに耐えなければいけないんだろうと思う。

―――外に行けばいいじゃないか。そうしてこの辛さから救ってくれる唯一の方法を・・・セックスをすればいいじゃないか。何を迷う必要がある。セックスさえすれば、今の苦しさや身体の震えもなくなるし、お前を必要としてくれる男が現われて、その空虚な部分を激しく突いてくれる。その快感を思い出せ。充足感を感じろ―――

私を誘う悪魔が、何度も何度も耳元でささやく。ふいに私の空虚な部分から、トロッとした液体が溢れ出した。慌てて両膝をギュッと抱え、これ以上流れ出ないようにと力を入れる。でも一度堰を切ってしまったものは、乾くことを知らない泉のように、次から次へとトロトロと湧いて出た。
窓際に置いたテレビから漏れ聞こえる、深夜のバラエティー番組のにぎやかな声。それが現実の音であることは充分わかっているけれど、まるでリアリティーを感じない。

―――外へ行け。セックスをしろ―――

悪魔のささやきはますます現実味を帯びて大きくなっていく。これこそが唯一の、真実の声なのだと、私の身体の空虚な部分を熱く燃え立たせ、激しくせきたてる。

怖い・・・もうダメだ。このささやきに従ってしまいそうだ。

・・・・・・ダメだ、いけない・・・・・・

遠くの方で、必死に私に訴えかける声が聞こえたような気がするけれど、それはあまりに頼りなく、あっという間に消えていくシャボン玉のように儚げだった。

―――外へ行け。セックスをしろ―――

悪魔の声がどんどん大きくなっていく。私は膝を抱えてギュッと目を閉じ、両手で耳を塞いだ。しかしすでに頭の中に進入してしまったその声は、耳を塞ぐことによりより一層強くなった。そしてすぐさまこの声に従うのだと命令していた。

息がどんどん荒くなり、呼吸が浅くなっていく。気持ちが悪い。世界が揺れる。押さえても押さえても身体の震えが止まらない。誰か助けて!

身体を抱えていた手を緩める。力なく床に片手を付き、私はゆらりと立ち上がった。
途端一時(いっとき)止まっていた液体が、タラタラと流れて足を伝った。何者かに操られるようにパジャマのズボンを脱ぎ、ジットリと濡れてしまったショーツを剥ぎ取る。私はそのままの格好でクローゼットへ向かい、外出のための衣装を取り出した。
posted by 夢野さくら at 13:23| Comment(2) | 14番目の月
この記事へのコメント
振り返れば、この作品のお芝居が、スパコンとの出会いでした。

でも当時は、主人公が、こんな悩みを抱えていたとは、あまり理解できなかったです。

舞台上で、こんなシーンは無かったし、後半のセリフだけでの表現だったので、携帯小説が始まった時は、かなり衝撃的でした!
「セックス依存症」?こんな病気がホントにあるのだろうかと・・・
再度、ここで読んでいく内に、ホントにこんな症状だったら、辛いだろうなぁ〜と、少し実感してきました。

これは、舞台での表現は難しいでしょうね。
一度、映像(ドラマ?)で見てみたい気がします。

Posted by きま・ぐれこ at 2008年05月19日 19:08
きま・ぐれこさん

コメントありがとうございます\(^・^)/!

>振り返れば、この作品のお芝居が、スパコンとの出会いでした。

そうでしたねぇ。なんかずいぶん前のような気もするし、そうじゃないような気もします。
いつもいつもスパコンを応援してくださっていて、本当に感謝します!

舞台上ではやはりこれほどの表現は難しいですよね^^;
でもシルエットか何かで挑戦してみたいですね。
・・・役者さんがイヤだっていうかもしれないけど(^_^;)

映像は面白そうですね。
私もやってみたいです!

また感想お待ちしております(*^_^*)
Posted by さくら at 2008年05月21日 11:03
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