2008年11月29日

10

「最初に噂を流したのが、うちの銀行の新宿支店に勤めてる、野村さんの同期の本永という人らしいんです」

 ある日、三友銀行新宿通り支店・法人営業部に所属している本永俊介は、融資相談のため、『新宿メトロプラザホテル』のロビーで人を待っていた。
 約束の時間まであと5分という頃、携帯電話が鳴り、融資先の社長が仕事の都合で遅れそうだと連絡を入れてきた。
 忙しいのにワザワザ呼び出しておいてと思いつつも、相手は新宿の老舗中華レストラン社長。業績好調で新店舗を出すことになった相手だ。三友銀行にとって、確実な資金融資先の機嫌を損ねるわけにもいかない。
「大丈夫ですよ。では19時半で。はい、お待ちしております」
 愛想よく言ったあと、電話を切り舌打ちをした。約束が1時間ほど伸びてしまった。いったん銀行に戻ろうか。それともどこかで食事でもして待っていようか。そんなことを考えながら、本永は何気なくロビーを眺めた。
 週半ばのホテルは、地方からの出張客や夕食を取ろうとする人でなかなかの混雑振りだった。
 本永はその中に、見覚えのある美しい横顔を見つけた。同期の野村麻子だ。
『なんであいつがここに?』と思いながら、本永はその服装に驚きの目を向けた。
 麻子は背中が大きく開き、身体にぴたりとあったピンクのミニドレスを着ていたのだ。一瞬麻子ではないのかと思った。それくらいいつもの彼女からは考えられない格好だった。
 
 本永ももちろんだが、麻子は同期入社の男性陣にとって羨望と嫉妬の的だった。
 モデル並みの美しい顔立ちに抜群のプロポーション。同期では1、2を争う出世頭。当然今まで、同期先輩後輩含め何人もの男が麻子にアプローチをした。しかし麻子は自分は誰とも付き合う気がないと、どんな男も全く寄せ付けなかった。
 あっさり引き下がるものもいれば、しつこく食い下がるものもいた。どうしてダメなんだ。俺の何が悪い。本当は好きなヤツでもいるんだろう。麻子がいくら違うと言っても、全く耳を貸そうとはしない。
 本永はしつこいグループの中でも、筆頭と言っていい存在だった。
 一流大学を出て、一流企業に就職し、容姿も人並み以上。当然自分に相当の自信を持っていた。
 入社すぐに麻子に目をつけ、あっさりと振られた。ムキになり、その後何度もアプローチを続けたがまるで相手にされなかった。
 本永のプライドはいたく傷ついた。そのうえ仕事でも麻子の役職は本永の上だったのだ。
 たぶん2年前の麻子の人事課長昇進時に流れた噂も本永が発信元なのだろうと思われた。

 麻子は本永の目の前を通り過ぎ、エレベーターホールへ向かった。
 盛んに爪を噛んでいるように見える口元は、真っ赤な口紅で彩られ、怯えたような目は落ち着きなく辺りを見回している。
 麻子はまるで本永に気づいてはいなかった。それを幸いに、本永は麻子のあとを追い、一緒にエレベーターに乗りこんだ・・・。

「私の彼の同期が新宿支店にいて、本永さんが噂を流してるっていうんです。まだ本店の方には来てないですけど、噂ってすぐに広まっちゃうし・・・」
 つかさは隣に立ちすくんでいる陽平を見て口をつぐんだが、代わりに美鈴があとを繋いだ。
「私たちは全然信じてないんです。だってその女の人、愛って名乗ってたらしいし。でも本永さんは絶対に野村さんだって言い張ってるんです。信じないなら本人に聞いてみろって」
 つかさは陽平を気にしつつ純也に言った。
「あの人野村さんに何度も振られてるから、腹いせに言ってるだけだと思います。すごくねちっこくて陰湿な人らしいし。ただ・・・噂になってることは事実だから、嘘なら嘘でハッキリしないと野村さんが困るだろうって思うんです。仕事だってやりにくくなるだろうし。だから・・・これって嘘なんですよね? 田島さんがさっきおっしゃってた噂って、このことなんですか?」
 純也はしばらく言い難そうに黙っていた。オカマたちも心配そうに純也と陽平を交互に見つめる。
 ここまで来たら陽平に黙っているわけにはいかないとサツキは思った。噂は会社にまで広がっている。知らないですむ段階ではない。
 サツキは純也の目を見つめると、黙ってひとつうなずいた。
「実は・・・」
 純也は意を決し、陽平にことの次第を話し始めた。
posted by 夢野さくら at 17:09| Comment(0) | 14番目の月

9

「みなさん、いったい何の話をしているんです?」
「先生! ・・・つかさちゃんに美鈴ちゃんまで・・・」
「えっと・・・来ちゃ、まずかった?」
 洋平のうしろから顔を出したつかさと美鈴は、オカマたちの動揺振りに戸惑った。
 ママたちは何を話していたのだろう。やはり臨時休業とあったのを無視して入ってきたのはまずかったのだろうか。

 つかさたちは今日、久しぶりのショッピングで新宿に来ていた。夕飯を食べたあと、最近あまり顔を出してなかった『紫頭巾』に行こうと話がまとまった。店がある路地に入っていくと、『新宿メンタルクリニック』のビルから、メチャクチャ二枚目の男性が出てきた。2人は思わず顔を見合わせ、あれはクリニックの陽平先生に違いない! と見当を付けた。
 サツキママの話では、野村さんと先生は付き合い出したという。でも野村さんにそんな素振りは全然ないし、本当かどうかは怪しい。仮に本当であったとしても、いい男であることに違いはないし、ママたちも喜ぶから連れてっちゃおう! そう思い、つかさと美鈴は陽平を無理矢理店に誘ったのだった。
 よく見ると、『紫頭巾』入り口に看板が出ていない。定休日でもないのにおかしいなぁと思いつつそのまま階段を降りると、店のドアには臨時休業の札がかかっていた。
 ガラスがはまったドアから目を凝らして店内を覗いてみると、店の奥でオカマたち4人と見慣れない男性1人が話し込んでいた。
「静かに入ってびっくりさせましょうよ」
 つかさはニヤッと微笑みつつ、人差し指を唇にあててそう言った。美鈴は親指と人差し指で丸を作り、楽しそうにクスクスと笑う。陽平は苦笑いを浮かべながらも、黙って2人に従った。
 そっと音の出ないようにドアノブを回してみる。鍵はかかっていない。静かにドアを開け、気付かれないよう注意をしつつ身を屈めて店内に入る。
 すると3人の耳に、今まで一度として聞いたことのない、重々しいサツキの声が飛び込んできた。
「・・・よく考えて。あたしたちは野村さんをよく知らない。でも彼女は先生が選んだ人なのよ。その人が、バカみたいに勝手な事情で、噂になるまで辻褄が合わない行動を取るかしら?」
 3人は驚き、顔を見合わせた。
 店内には、麻子に何か大変なことが起こったのだと思わせる雰囲気が漂っている。思わず声を上げそうになる陽平に向かい、つかさは再び人差し指を唇にあててみせた。
「もしかしたら一番かわいそうなのは、先生でもなく理沙さんでもない。野村さんかもしれないでしょ?」
 陽平は急に嫉妬と苛立ちを覚えた。
 あの見慣れない男はいったい誰なんだ。なぜ彼らが、僕の知らない麻子のことを話し合っているのか。あいつは麻子の何だというんだ。
 陽平は我慢ができずに立ち上がった。
「麻子がかわいそうというのは、どういうことですか?」
 軽い怒りを含んだその言い方に、オカマたちも驚いただろうがつかさと美鈴も驚いた。
 うわっ・・・先生怒ってる・・・。
 そのまましゃがんでいるわけにもいかず、2人もそろそろと立ち上がった。
「えっと・・・来ちゃ、まずかった?」
 陽平が少し苛立ったようにサツキに言った。
「その男性はいったい誰なんです? どうして僕がかわいそうなんですか。辻褄が合わないことってなんですか? ・・・答えてくれませんか、サツキさん」
 なんと言ったらいいのだろうかとサツキは答えに窮していると、「岩田先生ですね?」と、純也が陽平に声を掛けた。純也には、オカマたちの狼狽ぶりを見て、店に入ってきたのが麻子の彼・岩田陽平だとわかったのだ。
「僕は麻子さんの妹、野村理沙の婚約者です。田島純也といいます。はじめまして」
「理沙ちゃんの?」
「はい。お姉さんからお聞きなってませんか? 再来月結婚式があるって」
「それは・・・聞いています。おめでとう・・・ございます」
「・・・ありがとうございます」
 まさか理沙ちゃんの婚約者だったとは・・・と、陽平の戸惑いと混乱は頂点に達しそうだった。
 どうして理沙ちゃんの婚約者が『紫頭巾』にいるのだろうか。しかも話していたのは理沙ちゃんではなく麻子の話をだったはずだ。いったいどうして・・・?

「あの・・・田島さん、でしたっけ。私野村さんの部下で、浅倉美鈴といいます。彼女は後輩の」
「川崎つかさです。はじめまして。・・・噂っていうのはもしかして、あの噂・・・ですか?」
「ご存知なんですか?」
 つかさは一瞬陽平を見て躊躇したが、そのままポツポツと話し始めた。
「えっと、本当かどうかは全然わかんないし、私たちは嘘だって思ってます。ありえないと思うし。ただ・・・最近ちょっと会社で噂になってて・・・」
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8

 その日・・・夜8時の『紫頭巾』。
 純也は店の一番奥まった席に座り、オカマたちに昨日の出来事の全てを話して聞かせた。
 誰ひとり口を開くことができず、臨時休業中の店内はしんと静まり返っていた。

「ママ、先生に知らせるべきじゃない?」
 沈黙に耐え切れなくなったリリィがサツキを急かすようにそう言った。
 マルコもリリィに賛成の意を示し、大きく何度もうなずいている。
「まだ先生はクリニックにいると思うの。だから今から先生に」
「リリィちゃん、ちょっと黙っててちょうだい」
「だってママ!」
 今すぐにでも立ち上がり店を出て行きたい様子のリリィを止め、サツキはひと言ひと言言葉を選ぶように純也に話しかけた。
「田島さんでしたわね。話はよくわかりました。で、あなたはどうしたいと思っているのかしら? あなたの考えを聞かせてくれない?」
 どうと言われても、純也には具体的なことは何も浮かばない。麻子に付き合っている人がいるということも今初めて知ったばかりなのだ。ただ理沙に、このことをそのままを伝えることはできないと思った。
「・・・僕にはよく分からないんです。なぜお姉さんは付き合っている人がいるのに、あんなことを繰り返すのか。そして、どうして理沙をここまで避けるのか。僕はその理由が知りたいんです。もし原因が昨日のお姉さんの行動にあるのだとしたら、今すぐにでも止めてもらいたい。じゃなきゃ理沙がかわいそうです」
「そう・・・でもそれは難しいかもしれないわね」
「難しい?」
「ええ・・・」
 サツキはひとり考え込んだ。ダンボもマルコも心配そうにサツキを見つめている。
 リリィは、なぜママはすぐにでも陽平のところへ行かないのかといぶかしんでいた。
 そりゃあもちろんはじめはショックを受けるだろうし、すぐには信じないかもしれない。でもこのまま放っておくなんてできるわけがない。もちろん理沙さんもかわいそうだけど、先生の方がもっともっとかわいそうじゃないの・・・。
「ママ! なんで黙ってるの? どうして先生のところに行かないのよ。ねぇママったら」
「リリィ! 静かにしなさい」
 サツキの考えを邪魔しないようにと、ダンボがリリィを叱った。
 サツキはリリィの顔を見つめ、疲れたような笑みを浮かべた。
「リリィちゃんの言いたいことはよくわかるわ。でもね、これはあたしたちが口を出すことじゃないの」
「そんな! じゃあ黙ってみてろってこと? そんなの先生がかわいそうじゃないの」
「かわいそうかどうかは先生が決めることよ」
 リリィはサツキの顔をジッと見つめ、勢いよく立ち上がった。
「ママの考えはわかったわ。でもあたしはこのままにはできない。今から行ってくる」
「待ちなさい! 行っちゃダメよ」
「どうしてよ!」
 リリィはあまりのじれったさにサツキに向かって声を荒げた。
なぜ行ってはいけないのか。意味がわからない。あんなに先生のことが好きだったのに、彼女ができればもう関係がないというのか。
 かんしゃくを起こしそうなリリィに、サツキは強い口調で言った。
「あなただって事情も知らない他人に、『お前の彼氏はお前がいるにも関わらず、外で女を抱きまくってるぞ』なんて言われたらイヤでしょ! 違う?」
「事情なら知ってるわ! そのために田島さんを呼んだんじゃないの!」
「野村さんの行動は辻褄が合わない、変だって言ったのはあなたでしょ、リリィちゃん! それでも事情を知ってるって言えるの?」
 サツキの言葉にリリィはグッと言葉を飲み込んだ。
 サツキは自分を見つめるみんなの顔をゆっくりと見回し、ひとりひとりに言い聞かせるよう話をした。
「物事にはね、全てに原因があるの。事情を知ってるっていうのは、その全てをわかってる人だけが言っていいの。一見周囲が眉をひそめて、一番大事な人の信頼を裏切るような行動にも、必ず原因がある。もちろんそれは、呆れるような理由の場合もあるわ。でもね、野村さんの場合はどうなのかしら。・・・よく考えて。あたしたちは野村さんをよく知らない。でも彼女は先生が選んだ人なのよ。その人がバカみたいに勝手な事情で、噂になるまで辻褄が合わない行動を取るかしら?」
 サツキはもう一度みんなを見回し、自分の言いたいことが伝わったのかどうかを確かめた。
「いい? 一概に先生がかわいそうなんて、あたしたちが決めてはいけないの。その原因がハッキリした時に、先生自身が決めることなの。もしかしたら一番かわいそうなのは、先生でもなければ理沙さんでもない。野村さんかもしれないでしょ?」
 純也はしばらく考えたあと、静かに口を開いた。
「でも、お姉さんのことが噂になっているのは事実です。僕はこのまま放っておくことはできません」
 サツキは純也に、自分の考えを話すために口を開こうとしたまさにその時、「麻子がかわいそうというのはどういうことですか?」と、微妙に怒りをはらんだ低い声がした。
 オカマたちと純也が声の方へ顔を向けると、どこから話を聞いていたのか、いつの間にか陽平が店の入り口に立っていた。
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2008年11月02日

7

 もう金曜の夜とは言わず、土曜の早朝と言った方がいい午前4時半過ぎ。
 純也と里山は、リリィに『紫頭巾』に連れて来られた。
 飲みすぎて店に泊まることもあるので、鍵はオカマたち全員が持っている。
 ここなら誰の邪魔も入らず里ちゃんと2人っきりになれるわ! と、リリィは早く純也との話を終わらせたい一心で、「あたしに話って何?」と純也に尋ねる。
「さっきリリィさん、ピンクの服を着た女の人のこと、野村さんって呼んでましたね」
 純也からどんな話が飛び出すのかはほとんどどうでもいいと思っていたリリィだったが、まさか麻子の話が出てくるとは思わなかった。
「えっ・・・ええ。言ったわよ」
「ピンクの服って、もしかして愛のことが?」
 里山がリリィに尋ねた。
「愛?」
「んだ。いづもピンクの背中の開いだ服着てる女だべ。そろそろ『メトロプラザホテル』から出入り禁止にされそうだって噂だ。苗字は野村っていうのか・・・」
 里山の言葉に、純也はショックを隠せずにうなだれた。
「そうです。その人です。やっぱり噂になってたんですね・・・」
「まぁな・・・。ここらでも立ちんぼはいるどもよ、あの女は金は一切取らないらしいんだ。しかもあれだけの美人だべ。最初はホテル側も見て見ぬ振りしてたんだ。売春でもねぇしな。でも『メトロプラザ』はラブホテルじゃねぇべ? あそこのバーラウンジに行げば、ピンクの服着ためっちゃくちゃキレイな女とやれるなんて噂になってみれ。商売柄まずいべ」

 里山は歌舞伎町の顔役といった役割をしている。その関係で歌舞伎町界隈で起こっていることは、ほとんどの事情を把握しているようだ。
「ちょっと待ってよ里ちゃん。その人愛っていうんでしょ? あたしが知ってるのは、野村麻子っていう人よ。愛じゃないわ。違う人じゃないの?」
「いえ。その愛って名乗っている人が野村麻子だと思います。たぶん間違いありません」
 里山の、金は取っていないという言葉に少しだけ安心した純也は、戸惑うリリィにキッパリと言った。
「あんたはいったい誰なのよ。何で野村さんのこと知ってるの? 野村さんはね、三友銀行の人事課長さんなのよ。そんなバカなことするわけないじゃないの」
 この目の前の男は、いったい何を言っているのだろうとリリィは思った。
 麻子には陽平というれっきとした彼氏がいる。お金に困ってというならまだしも、金を一切もらってないのだとしたら、そんなことをする理由などどこにあるというのか。里山と田島と名乗る男は、いったい何を言っているのだろう。
「僕は・・・僕は野村麻子の妹、野村理沙の婚約者です」
 麻子の妹の婚約者。
 思いもかけない純也の言葉に、リリィはまさに呆然自失状態。
 野村さんには妹がいたのか・・・リリィの混乱した頭は、そんなどうでもいいはずのことばかりがよぎっていた。
「今日お姉さんにお会いしようと思って家へ行きました。そのあとホテルに急ぐお姉さんを車で追いかけて、バーラウンジに行ったんです・・・」
 純也はショックの連続だった今日一日を、できるだけ簡潔にわかりやすく話そうと努めた。
 説明を聞きながら、リリィはふと、先生はこのことを知っているのだろうかと考えた。
 イヤ、知ってるわけはない。知っていながら放っておくはずがないではないか。だとすると・・・。
 リリィの頭の中から、今日里山を自分のものに! という考えは、いつの間に消えていた。
 はっきりいってそれどころではない。とにかくこの話をママたちに相談しなくてはならない。このままでは先生がかわいそうすぎるし、先生を麻子に取られたオカマたちの面子が立たないではないか。

「ねぇ、田島さん。明日の夜、じゃなくて今日の夜だけど、またここに来れない? お願い、来てほしいの。ダメ?」
「でも・・・何のために?」
「あなたもこの状況をどうにかしたいと思ってるんでしょ? だから野村さんのあとを付けたりしたんでしょ? だったらあたしの仲間にこの話をして。これは占い師の勘なんだけど、なんか野村さんの行動は辻褄が合わない気がするの。どこがどうって言われると困るけど、でもなんか変! 絶対普通じゃない。そう思わない?」
 純也には、状況をよくすることと、再びここに来ることがなぜ繋がるのかはわからなった。
 ただリリィの必死な目と、辻褄が合わないという言葉に引っかかりを覚えた。急に理沙を無視するようになったのも、噂になるまでこんなことを繰り返すのも、理沙から聞いていた麻子の印象とまるで違うのだ。
「田島さん、お願い!」
 リリィのモヒカンが揺れ、純也はコクンとうなずいた。
posted by 夢野さくら at 02:37| Comment(0) | 14番目の月